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若者の心をつなぎとめる理想や物語を

 「赤い毛糸にだいだいの毛糸を結びたい だいだいの毛糸にレモンいろの毛糸を レモンいろの毛糸に空いろの毛糸も結びたい この街に生きる一人一人の心を結びたいんだ」。夫・堤さん、長男・龍彦ちゃんと共に殺された坂本都子さんの詩だ▲この詩が刻まれた坂本弁護士一家殺害事件の慰霊碑が、遺体発見現場の山中から山麓(さんろく)に移設された。落石で現場が危険なためだが、その移設作業が終わったきのう、犯行に加わったオウム真理教元幹部、中川智正被告の上告が棄却され死刑が確定する見通しとなった▲「恐ろしき事なす時の我が顔を 見たはずの月 今夜も清(さや)けし」は中川被告の歌という。坂本さん一家が殺害された22年前から6年後の地下鉄サリン事件にいたるオウム真理教による一連の犯罪だ。その裁判が21日の遠藤誠一被告への最高裁の判決をもって終了する▲だが公安当局によればオウム真理教の後継教団の信者数は1000人を超え、教祖だった松本智津夫死刑囚への崇拝は続いている。そもそも事件を知らぬ若い入会者が増えていると聞けば、過ぎた年月にむなしさも覚える▲教祖の途方もない妄想はなぜ若者の心を、また幾多の人命まで現実から奪い去れたのか。裁判は終わっても、答えはなお薄明の中にとどまった。そして心配も胸を刺す。今日の現実は若者の心をつなぎとめる理想や物語を事件当時よりさらにやせ細らせてはいまいか▲いや、カルトの灰色の妄信を過大評価してはなるまい。人々が生きる色とりどりの現実を結び合わせ、彩り豊かな世界を編んでいく都子さんの夢は、きっと今の若者にも引き継がれていこう。<「余録」毎日新聞(11.11.19)>

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