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井上光貞 『日本国家の起源』

日本民族の成立 ・・・・・日本には太古の昔からわれわれの祖先が住んでいた。しかしそれは、即日本民族の成立を意味しない。なぜなら、生物学的な人種の概念と、民族という概念とは別個のものだからである。民族学者、石田英一郎氏は日本民族の起源を論じたある論考に、民族とは「一定の地域に長期間、共同の生活を営むことによって、言語・信仰そのほか各種の文化内容の全部もしくは大部を共有し、同一の歴史と伝統と運命のもとに『われわれ』という共通の集団帰属感情によって結ばれるようになった人間集団の最大の単位である」と述べている。この十分に首肯できる観点からすると、日本民族の成立は、日本人の起源の問題とよりも、日本国家の起源の問題と、はるかに密接に結びついていることがわかる。日本人がたがいに「われわれ」という共通の集団帰属感情をもつようになったのは、最もさかのぼっても、日本人が一つの統治機関のもとに組織されるにいたる時代よりも前ではありえないのである。したがって石田氏がさらにつづけて「日本のような島国では、国家的統一とそれによる交通圏の拡大とが、比較的容易に各種の地方的な部族群を一個の民族にまで融合せしめた」と述べているのは、いちおううなずげることである。日本人の起源の問題は、日本民族の起源といいかえてもよいかもしれない。しかし日本民族の成立ということになると、その場合には日本に一つの大きな統治組織の作られた時点が、決定的に重要な意味をもってくるのである。

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